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前に進む力――Keep Going「高校日本一」から「箱根駅伝優勝」への軌跡 両角速

少し前の話になるが、東海大学陸上部監督の両角速氏の本を読んだ。

この本は2019年に出版されており、その年は両角氏が率いる東海大学陸上部が初めて箱根駅伝を制した年である。ご存じの方も多いと思うが、両角氏は長野県の佐久長聖高校駅伝部の監督として部を率い、全国高校駅伝の常連校に育て上げ、大迫傑や佐藤悠基といった日本を代表するランナーを多数育て上げた。その後、東海大学陸上部長距離ブロックの監督となり、前述の通り、同校を箱根駅伝総合優勝に導いたまさに名伯楽である。この本では東海大学の監督に就任してから箱根駅伝総合優勝を果たすまでの苦労や指導に対する考え等が記されている。大学駅伝を観戦するのはもちろん好きではあるのだが、それでもこれまで知らなかったことや勉強になることも様々書かれていた。中でも特に印象に残っているのが、以下の記述だ。

「脚を痛めてしまうのは基本的にはトレーニングに耐えうる脚ができていないことに尽きる。最近の学生は故障の原因を日頃のマッサージを始めとしたケアが足りていないと考えがちだが、それは大きな間違いである。故障が多い選手に限って距離を踏んでいない。少し違和感があるとゆっくりと走ることさえしない。」

この考えはとても示唆に富んでいるのではないかと思う。というか、故障していた時の僕に向けられた言葉のようにも聞こえる。様々なトレーニング理論があるが、どの理論においてもベースとなるのはjogである。ランニングの能力をピラミッドに例えるならば、jogはまさに土台部分の形成を担うトレーニングだ。土台がしっかりしていないと、その上に積み上げられるより実践的な能力をより高く積み上げることはできないだろう。jogすらもできない故障の状況はもちろん対象外であろうが、jogという練習を改めて見直すいい機会をこの本から得た。

あと、スポーツは教育の一環である、という両角氏の考え方に僕も全く同感だ。昨年の東京夏季オリンピックや今年の北京冬季オリンピックでメダルを期待されたアスリートが目標に到達できなかった時、多くがこう口にするのをみなさんも耳にしたことがあると思う。

「みなさんの期待に応えられず申し訳ない。」

特に日本のお家芸と言われる競技においてよく聞かれるコメントだ。僕はこの言葉にいつも違和感を感じる。この言葉の背景にあるのは勝利至上主義だと思うが、果たしてスポーツは他者に勝つことが全てなのだろうか?仮に他者に勝つことが全てだとして、勝利することでその先に得られるものは何なのだろうか?スポーツの世界を飛び出してみても、所得格差がこれまで以上に広がる現代資本主義社会において、大切なものは何かという命題についてこの本は気づきを与えてくれる。

数日あればさらっと読めてしまうので是非。さぁ、帰ってjogしよう。