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決戦前のランニングノート 大迫傑

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前から気になっていた大迫傑の本を図書館で借りて読んでみた。ランニングノートという趣旨から純粋にトップアスリートがどのような練習をしているのかを知りたかったのと、東京オリンピック直前に出版されたということでオリンピックを直前に控えた大迫傑の心の移ろいを感じたかったからだ。

本の構成としては大迫傑が所属していた駅伝の名門校佐久長聖高校3年時の練習日誌から始まり、東京オリンピック前に合宿を行っていたケニア・イテン、彼の本拠地ポートランド、オリンピック直前に合宿を行っていたフラッグスタッフにおける練習メニューと彼が日々トレーニングを積む中で考えたことや走ることに対する想いが綴られている。僕は図書館でこの本を借りたので手に取ることはなかったが、この本を購入すると付録として練習日誌が付いてくるようだ。ランナーズに年1回付いてくる練習日誌みたいなものですかね。

この本を読んで最も印象に残ったことは、彼の変化を恐れない、成功体験をも捨てる勇気を持つ姿勢だ。

東京オリンピックを直前に控え、彼はケニア・イテンで7ヶ月もの長期合宿をすることを選択した。イテンは標高2,400mの地点にあるため、高地における合宿ということになるが、大迫傑のこれまでのフルマラソンのトレーニングでこれほどまでの長期間、高地トレーニングを実施したことはなかったそうだ。高地トレーニングというと、2000年のシドニーオリンピックで金メダルを取った高橋尚子を代表とする日本女子マラソンランナー達が積極的に取り入れていたことが有名で、高地でトレーニングを行うことで血液内のヘモグロビンの数が増え、より多くの酸素を筋肉に送り出すことができるようになる。一方で体調管理に難しさがあり、うまく高地トレーニングを取り入れないと故障等のトラブルに見舞われ、目標とする試合に出場することができなくなる可能性もある諸刃の剣となりうるトレーニングである。それを大迫は東京オリンピックを直前に控えた時期に取り入れた。

僕のような一般人の感覚からすると、過去に2度フルマラソンで日本新記録を更新した時のトレーニング方法を踏襲するのがセオリーに感じてしまうが、彼はそれをしようとはしなかった。それは、まさしくオリンピックでの結果がどうなるかは分からないが、自分が強くなるために何が必要か自分の頭で考えた結果に他ならない。振り返れば、彼が日本を飛び出し、Nike Oregon Projectに参加した時も同じような状況だった。強くなるためにはどうしたら良いのかを周囲の反対があった中でも彼自身が考え、渡米することを選択をした。ここに僕は彼自身の強さを見たような気がした。仮にこの高地トレーニングが失敗して、オリンピックで結果を残せなかったとしても、彼は仕方がないこと、結果と同じぐらいに自分自身が強くなろうとチャレンジしたプロセスにも価値があると言ってのける。オリンピックという大舞台を前にしても、このメンタリティを持てることはそうできないことだと思う。

結果的に新型コロナウィルスの影響で大迫は長期合宿を途中で中断し、アメリカに帰国することになるのだが、アメリカに帰った後も彼は予期しなかった流れに抗わず、むしろその変化をも力に変えて、強くなるためのトレーニングをオリンピックに向けて愚直に続けていくことになる。転じて自分はどうだろうか。現状に甘んじていないか。前例踏襲で思考停止に陥っていないか。自分が成長するために考え抜いているか。そして、自分で決めたことを愚直に実行に移せているか。仕事でも趣味の走ることでも。そんなことを考えさせてくれる一冊だった。

ちなみに大迫の練習後の楽しみはビールを飲むことだそうだ。ちょっと意外。ストイックなイメージを勝手に持っていた(もちろんトレーニングにはストイックであることは言うまでもない)が、息抜きのうまさもトップアスリートといったところだろうか。僕はビールとの付き合いが大迫ほどうまくないので、そんな姿勢も見習わなければならないな。